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Blot out 3
このせつ長編
「Blot out 3」
雨は下校時刻になっても降り続いていた。
今朝天気予報を見てくるのを忘れたが、この分だと一日中こうらしい。
昇降口で少し小さめの赤い傘を開き、屋根の無いところへ踏み出す。
ぽつぽつと雨音が聞こえた。
とんとん、と踵を整えながら髪を二つに結んだ少女、一つに結んだ少女もそれに続き、傘を咲かせながら出てくる。
明日菜と、そして刹那と、いつものメンバーで帰宅。

「それでエヴァちゃんが私に言ってきたわけよ。」
「・・・なるほど。それならば私もそのことを考えて明日菜さんと修行します。」
「え!?いいよ!だって刹那さんにまた迷惑かかるじゃん。」
「迷惑だなんて思ってません、それに・・・私は明日菜さんの師匠ですよ?」
「でも・・・・。」
「でも、はナシ。師匠の言うことは素直に聞いてください。」

今朝の会話をしている二人。
朝の、木乃香が一人で登校した事件・・・・まあ、刹那が勝手に命名したのだが、
それから派生してこの話になった。

木乃香に対して護衛の顔をする時と違い、今は本当に師匠らしくて凛々しい刹那の顔。
仕事モードに近い刹那は、きっぱりと、はっきりした対応をし、
最後に笑顔で明日菜を黙らせようとしている。

「せっちゃん、帰り部屋寄ってく?」

隣で‘お手上げ’というような表情をしているツインテールの彼女の助け舟、
という意味もあるが、修行話の続きがあるだろうと声をかけた。
だが、刹那は思いがけない反応を返してきた。
・・・・本当に、本当に一瞬、朝と同じ‘気’。
すぐに収まったが、それは間違いなく刹那から発せられたもの。
一瞬しか感じられなかったのは、きっと刹那がコントロールしたのだろう。

「・・・・・私個人の修行がありますので今日は直接帰ります。」

こう答えた刹那は笑顔だったし、会話も普通な流れだった。

「・・・・・・そうなんや。」
「じゃあ、話はまた後でしよ。」
「はい。」

しかし私は逃さなかった。
・・・・あの重みを。
修行もしていないというのに、‘これは刹那の気’と一瞬で理解してしまうというのは、
近衛家の血の力なのかもしれない。
とりあえず自分が刹那の異変に気づいたことを刹那に感づかれないよう気をつけながら岐路についた。

寮について、もちろん素直に刹那と分かれた。
明日菜の喋り方からして、さっきの刹那の変化には気づかなかったように思う。
ガチャリと部屋のドアを開けて、とりあえず鞄を置く。
明日菜は色々疲れているようで、鞄を放り投げた後ソファーにどさりと腰を下ろした。
きっと修行は肉体的にも辛いが精神的にも辛いのだろう。
ちょっと考えてから私はキッチンに向かってお茶の用意をし始めた。

「夜・・・・また呼ばれてるんだ。」
「エヴァちゃんとこ?」
「そ。」

部屋には若干疲れぎみの明日菜の声が響く。
眉尻を下げながら笑う彼女は八重歯もちらりと見せていた。

「また夜一人でごめん。」

今朝の刹那の謝罪の影響なのだろうか、彼女は付け足した。

「気にせんでええよ、一人で居るくらい。明日菜が謝ることやないし。」
「・・・・でも刹那さんは今日呼べそうもないじゃない?」
「え?」
「何かあったの?」

びっくり。ちゃんと気づいていた。
・・・・考えてみれば明日菜はこういうことに敏感だ。

「・・・・・気づいてたん?」
「一応私の師匠兼友達だしね。」

もう一度白い歯が見えた。
でも目は笑っていなかった。

「・・・・ウチも何があったのか分からないんよ・・・」
「そっか。」

そうだよね、と伸びをしながら明日菜は答えた。木乃香の様子から何も話されていないことを察していたようだ。
木乃香はちょっとためらって、
でもこんな相談は明日菜にしか出来ないと思い、口を開く。

「・・・・・・せっちゃん朝からおかしいんよ。」
「へ?」

ソファーに寄りかかっていた明日菜は背もたれの部分からにゅっと顔だけだしてこちらを覗いた。
キッチンでは、カタカタと火にかけたやかんは沸騰しかけの音を出し始める。
木乃香はとりあえず今日の朝の刹那の様子を説明した。

「・・・・漏れ出した‘気’・・・・・?」

話を聞いた明日菜は腕組をしてうんうん唸っている。

「・・・・刹那さんって裏の仕事やってるから、敵が近くにいたのかもよ?」

眉毛をハの字型にしながら明日菜が言う。

「・・・・・でも、せっちゃんはあの時ウチの存在に気づいていなかったんよ。」
「・・・それはおかしいかなあ・・・木乃香の勘違いじゃなくて?」
「あんなに近くにいたら普段のせっちゃんなら気づかないはずないもん。」
「だよねえ・・・。」

明日菜は組んでいた腕を逆に組みなおした。

「でも、もし敵に夢中になってたら?その敵が刹那さんが必死になるくらいの強敵ならそれで手一杯になるかもしれないし、私たちに危害がないように刹那さんなら隠しかねないよ。・・・・・そしたら木乃香を避けてるのも肯けるし・・・・・」

ほんの少し、胸がちくりとした。
‘避けている’ということは分かっているが、もう一度言葉で認識すると辛いようだ。

「あ、ゴメンそんなつもりはなくて・・・・」

どうやら木乃香は顔に出ていたようで、察した明日菜は慌てて謝った。

「敵がいたら刹那さん、真っ先に木乃香を守ると思う。敵と木乃香を遠ざけようとするよ、だからきっと・・・・・」

明日菜の言葉は温かかった。
きっと自分はそんなことしているつもりはないが、感じ取られてしまっている。

「ゴメン明日菜、ありがとう。でも、敵に向けられたって訳でもなさそうなんよ。そしたらもっと強い気が充満すると思うし、魔法初心者のウチかてこんな中途半端な感じ方じゃないと思う。」
「確かに・・・・・」

話は結局振り出しに戻ってしまった。
沸騰したやかんが蒸気でピーピー鳴き始めた。

「木乃香・・・・」

明日菜は何か話しかけたが、木乃香は言葉の続きを遮った。
学校帰りの刹那のように笑顔で。

「・・・・明日菜、有難う。」

表情を読み取って、明日菜は言葉を飲み込んだ。
静かに、修行の支度をはじめる。

「・・・・お茶のむ?」
「・・・・うん。」

明日菜は入れてあげたお茶をぐいっと一気に飲み干すと、一言残し修行に向かった。

‘刹那さんは絶対木乃香を嫌いになんかならないよ。’

バタンと勢いよくドアが閉まる。

「・・・・・絶対に・・・・・か・・・・。」

もしかしたら明日菜は、木乃香が一番何を心配しているのか分かっていたのかもしれない。
部屋に残された木乃香はもう一度その言葉を繰り返し、
とりあえず帰ったままの制服姿をどうにかしようと、リボンを解いた。

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