このせつSS 「THE DOG」
今年最大の寒波が日本列島に上陸。
そんなニュースを今朝聞いたような気がする。
=THE DOG=
寒い寒いと思って窓の外を見ると、珍しく雪がちらついていた。
今日は休日で、寮を出る予定はないが、今日の予定というものはちゃんとある。
実はお嬢様が遊びに来るのを待っているのだ。
朝から妙に落ち着かなくて、室内をうろうろしていた。
そんな様子が視界にちらちらと入っていたのだろう。
そこの犬、お座り。と、ルームメイトに言われた。
この同室の龍宮には、キッチンで本日三回目のコーヒーを沸かした時についに呆れられ、‘垂れ下がった尻尾を見ているのも面倒だ’といわれ逃げられた。
・・・・・なんだよ、尻尾って。
時計をちらりと見ると、彼女が来るまでには中途半端な時間しか残っておらず、外に出る余裕はない。
別に何があるというわけでないし、彼女とは昨日も会った。
ただ、私が彼女の部屋に遊びに行くことは多くても、彼女がこちらに来るのは珍しい。
だから、いつもと違うこの状況に、ほんの少しドキドキしているのだ。
いや、ほんの少しなんて言ったら龍宮に殺し屋の目つきで睨まれそうだ。
・・・・うん、すごく落ち着きませんよ、隊長。
少々ハイになってきている自分に苦笑いをこぼす。
正直、龍宮には彼女が来るまで相手をしてほしかった。
しかし龍宮は私と彼女が会うとき、外でも、部屋でも、それまで一緒にいても必ず待ち合わせの時間の前にいなくなる。
彼女は気がすごくよく回るのだ。
私がそれに気づいたのは最近になってから。
彼女が場を離れる時の理由やタイミングは恐ろしく自然で、巧妙。
そう、気を使うなよ、と、言ったのは最近のことだ。
・・・悔しいのでお嬢様に言われて初めて気づいたことは言わないでおいたが。
私の言葉を聞いた彼女は何を今更と、明らかに怪訝そうな顔をして、
誰が好き好んで飼い主とのスキンシップを見なきゃならんのだ、と言い放った。
飼い主単語に過剰に反応し、結局慌てふためいた私はやはり完敗だった。
その前に、自分がペットか何かに例えられている所につっこむべきだ、と今更だが思う。
ちなみにその時、龍宮はもちろん爆笑していた。
ふう、と息を吐いたところで時計をちらりと盗み見る。
時間が長く感じる時、時計は私にいじわるをして、遅い時刻を示しているような気がしてならない。
そっと見ることによって油断している時計から、本当の時間を見ることができる。ある種、遊びのような癖。
・・・・もちろん盗み見たところで時計が刻む時間を変えるわけではない。
くだらないことをしながら、ぼうっとしていたら背筋がじわっと寒くなった。
窓に近づいてみると、みぞれのような水分の多い雪でなく、しっかりとした結晶がさらさらと舞っていた。
室内だというのに吐いた息が白くなり、彼女が来るのにこれはまずいと窓に厚いカーテンを引く。
さらに、いつもより数度温度設定を上げて暖房をつけ、いそいそと加湿器をセットした。
ふと、いつも彼女はこんな気持ちで私を待っているのかなあ、と思ったが、
はんなりとした物腰の彼女が自分のように無意味に室内を歩きまわる様は想像ができなかったので苦笑いをする。
自分も彼女を見習わなければ。
見習わなきゃ、と思いはしても、そんなことすぐに実行できるわけはない。
どうしても落ち着けない。
仕方なく龍宮に言われたとおりに筋トレを始めた。
彼女いわく、これをして待つといいことがあるらしい。
・・・・嘘だろ。確実に。
それでもなんとなく腹筋をはじめ、ふと思う。
最近、自分の修行で剣を振る時間が長かった。
きっと上半身と下半身との体のバランスが少し崩れていたのをやんわり気付かせてくれたんだと思う。
彼女の観察力の鋭さと、回転の速い頭にはいつも感嘆するばかりだから、そんな意味が込められていても不思議でない。そんな時。
こんこん。
音源のする廊下を見て、跳ね起きる。
聞き逃すはずもなく、今までぐるぐると考えていたことは一気に吹き飛び、玄間へ出迎えに行く。
掴んだドアノブはひんやりと、外の気温がどれだけ低いかを物語っていた。
かちゃりとドアを開いて、瞬間に彼女の姿を認識した。
「どうぞ。」
ドアを開けたすぐに発した言葉に驚いたのだろうか。
お嬢様は一瞬目を見開いてから、ふわりと笑ってうなずいた。
体をよけて、彼女を部屋へ招き入れる。
彼女が外から連れてきた冷気が、少しぼんやりした頭にいい刺激を与える。
少し暖房を入れ過ぎていたようだ。
靴を脱ごうとしている彼女を見ていたら、彼女もこちらを見返してきた。
視線がぶつかる、と思いきや、どうも焦点が合ってないので不思議に思っていると、彼女に手首をつかまれ引っ張られる。
「へっ・・・?」
体が少し傾いて、頬に暖かい感触がしたと思うと彼女の顔がアップで映っていた。
やわやわとした感触。ついでに言うと、これは頬をなめられていたということらしい。
「・・・・ちょ、ちょ、とお嬢様!?」
感覚器官からの情報が脳に到達するまでが相当遅い。
ようやく情報処理した脳が慌てて活性化したらしく、血液が急いで顔まで上ってきた。
慌てふためく私から、彼女はすっと、離れる。
「・・・・汗」
「え?」
「たれてるえ?」
はっとして掴まれてないほうの手で頬を触ると、じんわりと湿っている。
「すみません・・・・ちょっと筋トレを・・・・」
「待たせてもうたんやね。・・・・・龍宮さんの言う通り・・・」
最後にこらえきれなくなったのか、くっと息を漏らし、おかしそうに笑う彼女に疑問の表情をぶつける。
「ふふ、さっき廊下で会ったんよ。忠犬が部屋でしっぽ振って待っとるって・・・っ」
「た、龍宮!?」
またしても自分をペット扱いのルームメイトの発言にカッと顔が熱くなる。
「しかも、ちゃんと龍宮さんの言いつけ守っとるし・・っ・・ふふ・・・」
笑いながら言った彼女の意をくみとれないでいたが、どうやら筋トレのことらしい。
「・・・・あいつ・・・・。」
筋トレを素直にやっていたら汗臭くなった上に、完全犬扱い。・・・お嬢様にまで。
踏んだり蹴ったりだと恨めしそうにしている自分を苦笑いで見つめる彼女。
「ええやん。」
苦笑いをしていた彼女の眼がふと細められた。
焦点を合わせると、彼女の瞳の奥がちりちりと燃えている。
「そういうところ、かわええよ?」
どきりとするような笑みを浮かべた彼女に、
もう一度、湿り気の残る頬に口づけられると、今度は耳元でぽつりと言われる。
「・・・・せっちゃんの汗の匂い、嫌いじゃないえ?」
瞬間的に全身が熱くなり、目を見開いた私を、彼女は見たのか見てないのか。
気づいたら彼女はお邪魔しますえ、と部屋に入っていた。
「・・・・・筋トレで・・・‘いいこと’・・ね?」
どくどくと脈打つ心臓を手で押さえ、ひとりごちる。
とにかく熱い。
とりあえず熱い。
彼女の待つリビングに戻ったら、お茶を入れるでも、お菓子を出すでもなく、
空気の入れ替えと称して窓を開けることを誓った。
end
そんなニュースを今朝聞いたような気がする。
=THE DOG=
寒い寒いと思って窓の外を見ると、珍しく雪がちらついていた。
今日は休日で、寮を出る予定はないが、今日の予定というものはちゃんとある。
実はお嬢様が遊びに来るのを待っているのだ。
朝から妙に落ち着かなくて、室内をうろうろしていた。
そんな様子が視界にちらちらと入っていたのだろう。
そこの犬、お座り。と、ルームメイトに言われた。
この同室の龍宮には、キッチンで本日三回目のコーヒーを沸かした時についに呆れられ、‘垂れ下がった尻尾を見ているのも面倒だ’といわれ逃げられた。
・・・・・なんだよ、尻尾って。
時計をちらりと見ると、彼女が来るまでには中途半端な時間しか残っておらず、外に出る余裕はない。
別に何があるというわけでないし、彼女とは昨日も会った。
ただ、私が彼女の部屋に遊びに行くことは多くても、彼女がこちらに来るのは珍しい。
だから、いつもと違うこの状況に、ほんの少しドキドキしているのだ。
いや、ほんの少しなんて言ったら龍宮に殺し屋の目つきで睨まれそうだ。
・・・・うん、すごく落ち着きませんよ、隊長。
少々ハイになってきている自分に苦笑いをこぼす。
正直、龍宮には彼女が来るまで相手をしてほしかった。
しかし龍宮は私と彼女が会うとき、外でも、部屋でも、それまで一緒にいても必ず待ち合わせの時間の前にいなくなる。
彼女は気がすごくよく回るのだ。
私がそれに気づいたのは最近になってから。
彼女が場を離れる時の理由やタイミングは恐ろしく自然で、巧妙。
そう、気を使うなよ、と、言ったのは最近のことだ。
・・・悔しいのでお嬢様に言われて初めて気づいたことは言わないでおいたが。
私の言葉を聞いた彼女は何を今更と、明らかに怪訝そうな顔をして、
誰が好き好んで飼い主とのスキンシップを見なきゃならんのだ、と言い放った。
飼い主単語に過剰に反応し、結局慌てふためいた私はやはり完敗だった。
その前に、自分がペットか何かに例えられている所につっこむべきだ、と今更だが思う。
ちなみにその時、龍宮はもちろん爆笑していた。
ふう、と息を吐いたところで時計をちらりと盗み見る。
時間が長く感じる時、時計は私にいじわるをして、遅い時刻を示しているような気がしてならない。
そっと見ることによって油断している時計から、本当の時間を見ることができる。ある種、遊びのような癖。
・・・・もちろん盗み見たところで時計が刻む時間を変えるわけではない。
くだらないことをしながら、ぼうっとしていたら背筋がじわっと寒くなった。
窓に近づいてみると、みぞれのような水分の多い雪でなく、しっかりとした結晶がさらさらと舞っていた。
室内だというのに吐いた息が白くなり、彼女が来るのにこれはまずいと窓に厚いカーテンを引く。
さらに、いつもより数度温度設定を上げて暖房をつけ、いそいそと加湿器をセットした。
ふと、いつも彼女はこんな気持ちで私を待っているのかなあ、と思ったが、
はんなりとした物腰の彼女が自分のように無意味に室内を歩きまわる様は想像ができなかったので苦笑いをする。
自分も彼女を見習わなければ。
見習わなきゃ、と思いはしても、そんなことすぐに実行できるわけはない。
どうしても落ち着けない。
仕方なく龍宮に言われたとおりに筋トレを始めた。
彼女いわく、これをして待つといいことがあるらしい。
・・・・嘘だろ。確実に。
それでもなんとなく腹筋をはじめ、ふと思う。
最近、自分の修行で剣を振る時間が長かった。
きっと上半身と下半身との体のバランスが少し崩れていたのをやんわり気付かせてくれたんだと思う。
彼女の観察力の鋭さと、回転の速い頭にはいつも感嘆するばかりだから、そんな意味が込められていても不思議でない。そんな時。
こんこん。
音源のする廊下を見て、跳ね起きる。
聞き逃すはずもなく、今までぐるぐると考えていたことは一気に吹き飛び、玄間へ出迎えに行く。
掴んだドアノブはひんやりと、外の気温がどれだけ低いかを物語っていた。
かちゃりとドアを開いて、瞬間に彼女の姿を認識した。
「どうぞ。」
ドアを開けたすぐに発した言葉に驚いたのだろうか。
お嬢様は一瞬目を見開いてから、ふわりと笑ってうなずいた。
体をよけて、彼女を部屋へ招き入れる。
彼女が外から連れてきた冷気が、少しぼんやりした頭にいい刺激を与える。
少し暖房を入れ過ぎていたようだ。
靴を脱ごうとしている彼女を見ていたら、彼女もこちらを見返してきた。
視線がぶつかる、と思いきや、どうも焦点が合ってないので不思議に思っていると、彼女に手首をつかまれ引っ張られる。
「へっ・・・?」
体が少し傾いて、頬に暖かい感触がしたと思うと彼女の顔がアップで映っていた。
やわやわとした感触。ついでに言うと、これは頬をなめられていたということらしい。
「・・・・ちょ、ちょ、とお嬢様!?」
感覚器官からの情報が脳に到達するまでが相当遅い。
ようやく情報処理した脳が慌てて活性化したらしく、血液が急いで顔まで上ってきた。
慌てふためく私から、彼女はすっと、離れる。
「・・・・汗」
「え?」
「たれてるえ?」
はっとして掴まれてないほうの手で頬を触ると、じんわりと湿っている。
「すみません・・・・ちょっと筋トレを・・・・」
「待たせてもうたんやね。・・・・・龍宮さんの言う通り・・・」
最後にこらえきれなくなったのか、くっと息を漏らし、おかしそうに笑う彼女に疑問の表情をぶつける。
「ふふ、さっき廊下で会ったんよ。忠犬が部屋でしっぽ振って待っとるって・・・っ」
「た、龍宮!?」
またしても自分をペット扱いのルームメイトの発言にカッと顔が熱くなる。
「しかも、ちゃんと龍宮さんの言いつけ守っとるし・・っ・・ふふ・・・」
笑いながら言った彼女の意をくみとれないでいたが、どうやら筋トレのことらしい。
「・・・・あいつ・・・・。」
筋トレを素直にやっていたら汗臭くなった上に、完全犬扱い。・・・お嬢様にまで。
踏んだり蹴ったりだと恨めしそうにしている自分を苦笑いで見つめる彼女。
「ええやん。」
苦笑いをしていた彼女の眼がふと細められた。
焦点を合わせると、彼女の瞳の奥がちりちりと燃えている。
「そういうところ、かわええよ?」
どきりとするような笑みを浮かべた彼女に、
もう一度、湿り気の残る頬に口づけられると、今度は耳元でぽつりと言われる。
「・・・・せっちゃんの汗の匂い、嫌いじゃないえ?」
瞬間的に全身が熱くなり、目を見開いた私を、彼女は見たのか見てないのか。
気づいたら彼女はお邪魔しますえ、と部屋に入っていた。
「・・・・・筋トレで・・・‘いいこと’・・ね?」
どくどくと脈打つ心臓を手で押さえ、ひとりごちる。
とにかく熱い。
とりあえず熱い。
彼女の待つリビングに戻ったら、お茶を入れるでも、お菓子を出すでもなく、
空気の入れ替えと称して窓を開けることを誓った。
end
この記事へのコメント
真面目にドキドキしました。
「・・・・せっちゃんの汗の匂い、嫌いじゃないえ?」
いいっすね。壺っす。
「・・・・せっちゃんの汗の匂い、嫌いじゃないえ?」
いいっすね。壺っす。
2008/02/17 (日) 18:11:06 | URL | #-[ 編集]
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